電源測定記録から読み取れる基板の状態について
コンテンツ情報
- 9 閲覧
- 一覧
本文
この写真は、単にいくつかの電圧値を書き込んだメモではありません。実際にマザーボードの診断や修理を行う人間が、「電源シーケンスがどこまで進行しているのか」を確認するために整理した測定記録です。記載されている数値一つひとつに、明確な意味があります。
基板全体を見ると、まず3Vおよび5Vのスタンバイ電源が正常に出力されています。これは非常に重要なポイントです。3V/5V ALW(Always)系が生きているということは、メイン電源コントローラやEC(Embedded Controller)、基本的な待機回路が動作していることを意味します。完全なショート故障の場合、この段階で動作が止まることが多いため、ここが正常であるという事実は大きな手がかりになります。
次に1.8V(約3kΩ)のラインですが、この数値は一般的に正常範囲です。1.8VはBIOSやRTC、各種I/O電源として使用されることが多く、電圧が生成され、抵抗値も異常に低くないことから、少なくとも電源レール自体は健全と考えられます。ただし、電圧が存在することと、BIOSデータが正常であることは別問題であり、ファームウェア破損の可能性までは否定できません。
0.9V(約112Ω)のラインは、CPUまたはSoCコア電源の可能性が高い部分です。この抵抗値であればショートとは言えません。コア電圧が実際に生成されていることから、VRMは少なくとも起動を試みています。これは「完全に無反応な基板」ではないことを示しています。
一方で、0Vかつ約8Ωと表示されている2か所のラインは注意が必要です。電圧が0Vということは、そのレールがまだ有効化されていないか、保護動作により停止している可能性があります。8Ωという値は極端なショートではありませんが、やや低めです。高電流コアラインであれば理論上あり得る数値ですが、電圧がまったく立ち上がらない場合、電源シーケンスが途中で停止している可能性が高いと考えられます。
12Vラインで0.88Ωという測定値も目を引きます。ただし、入力側には大容量コンデンサが多数並列接続されているため、電源OFF状態で抵抗測定を行うと低く表示されることがあります。重要なのは、実際に電源投入時に12Vが安定しているかどうかです。安定しているならば、大きな問題とは断定できません。
1.0V(16.7Ω)、1.1V(17Ω)、0.9V(8.8Ω)といった値は、メモリ関連や補助コア電源として妥当な範囲に見えます。致命的な短絡パターンではありません。むしろ「一部の電源は正常に生成されている」ことを示唆しています。
全体として整理すると、以下のような状況が推測できます。
・スタンバイ電源は正常
・BIOS電源も存在
・一部コア電源は生成されている
・しかし特定レールが0Vのまま停止
これは典型的な「部分起動後停止」の挙動です。電源シーケンスが最後まで進まず、中途段階で止まっている状態と考えられます。
想定される原因としては、CPU初期化失敗、PGOOD信号未成立、BIOSデータ異常、あるいは特定レギュレータのEnable信号不良などが挙げられます。
この基板は、完全ショートで焼損している状態ではありません。しかし正常起動にも至っていません。現実的には、電源シーケンス条件がどこかで満たされていないことが核心的な問題と考えられます。
診断を進めるならば、電源投入時の消費電流変化の確認、BIOS再書き込み、0Vレールのインダクタ両端電圧測定、レギュレータのEnableおよびPGOOD信号の確認といった順序で検証するのが合理的です。
写真に記載された数値は単なるメモではなく、基板がどの段階まで動作し、どこで停止しているのかを示す座標です。その流れを論理的に追えば、原因の特定に近づくことができます。






